「公務員って退職金が多いって聞くけど、実際どのくらいもらえるんだろう?」
「もし途中で辞めたら、退職金ってどれくらい減るの?」
そんな疑問を持つ方は非常に多いです。
とくに最近は転職ブームの影響もあり、定年まで勤め上げる公務員が減少しています。
しかし、退職理由や勤続年数によって退職金は大きく変わり、自己都合退職だと「数十万円」しかもらえないケースもあります。
私自身、県庁で約9年間、学校事務職員として約1年間勤務しました。
30代前半で自己都合退職を選んだとき、支給された退職金は約100万円。
「公務員の退職金=2000万円」というイメージを持っていた私は、その現実にかなり驚きました。
そして、もし転職や起業を考えている公務員がこの仕組みを知らずに辞めてしまったら、想像以上に厳しい現実に直面することになると痛感しました。
この記事では、そんな不安や疑問を解消するために、
国家公務員・地方公務員・民間企業の退職金の実態データ(最新版)
定年退職・自己都合退職の金額差とその理由
さらに退職金の計算方法・試算ツール・制度改正の影響
まで、わかりやすく解説します。
筆者は元県職員・現FP資格保有者として、数字に基づいたリアルな実例とともに「退職後の生活設計」まで踏み込んで紹介します。
この記事を読むことで、あなたは「退職金の正しい相場」と「将来の資金計画」を明確に描けるようになるでしょう。
(退職金の正式名称は「退職手当」。本記事では分かりやすくするため「退職金」と表記。)
本記事を書いている伯爵さんは県庁職員(約9年)及び学校事務職員(約1年)の経歴があります。
【平均退職金】
- 国家公務員(行政職・定年退職) 21,221,000円
- 地方公務員(行政職・定年退職) 22,623,000円
- 民間企業(企業規模1000人以上・定年退職) 27,276,000円
- 国家公務員(行政職・自己都合25~29歳) 516,000円
- 地方公務員(行政職・自己都合25~29歳) 529,000円
公務員の退職金(退職手当)とは何か?
公務員の「退職金」は、正式には「退職手当」と呼ばれます。
民間企業の退職金制度とほぼ同じ仕組みですが、国家公務員・地方公務員それぞれ独自の法令に基づいて支給されているのが特徴です。
退職手当と退職金の意味と違い
「退職手当」と「退職金」は一般的に同義語として使われますが、厳密には少し意味が異なります。
退職金:企業などが自主的に支給する退職一時金。労働契約や就業規則に基づいて決まる。
退職手当:法律または条例に基づき、公務員に対して一定の算定基準で支給される手当。
つまり、公務員の退職金は「恩給」や「年金」とは別枠の一時金(まとまった退職時の支払い)であり、労働の対価としての最終支給額という位置づけになります。
退職金は、勤続年数・退職時の俸給(月給)・退職理由によって金額が決まり、長く勤めるほど・定年まで勤めるほど多くなる仕組みです。
国家公務員と地方公務員で制度が違う
退職手当の算定方法や支給条件は、国家公務員と地方公務員で若干異なります。
| 区分 | 法令・制度の根拠 | 支給主体 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 国家公務員 | 国家公務員退職手当法 | 国(人事院の所管) | 「官民均衡」を基準に概ね5年ごとに見直し |
| 地方公務員 | 各自治体の条例(地方公務員法に基づく) | 都道府県・市町村 | 自治体ごとに支給率や調整額が異なる場合あり |
国家公務員は全国一律の基準で支給されますが、地方公務員は自治体によって支給率や調整額が微妙に違うため、たとえば東京都職員と地方の県職員とでは、同じ勤続年数でも退職金額に差が出ることがあります。
民間企業との大きな違い
公務員の退職手当は、「公務員としての身分を持つ限り確実に支給される」という安定性が最大の特徴です。
民間では業績悪化などにより退職金制度が縮小・廃止されるケースもありますが、公務員の場合、法令で制度が保障されているため原則として支給されないことはありません。
一方で、支給基準が厳格に決められているため、
自己都合退職(自ら辞める場合)
懲戒免職(重大な非違行為による退職)
では支給率が大幅に下がる、もしくは退職金が全額不支給となるケースもあります。
退職金は「官民均衡」で決まる
国家公務員の退職金は、民間企業の実態調査をもとに「官民均衡(バランス)」を取るよう設計されています。
これは、「公務員だけが極端に優遇されないようにする」ための制度です。
人事院ではおおむね5年ごとに民間企業の退職給付(退職金+企業年金)を調査し、それをもとに国家公務員の退職手当を改定しています。
定年退職時の公務員の平均退職金額(最新データ)

それではまず、多くの方が気になる「定年退職時の退職金」から見ていきましょう。
ここでは、国家公務員・地方公務員・民間企業の平均支給額を最新データに基づいて比較します。
国家公務員(行政職)の定年退職金:平均2,122万円
内閣官房の「令和5年度 退職手当の支給状況」によると、60歳で定年退職した国家公務員(行政職俸給(一))の平均退職金は約2,122万円となっています。
| 区分 | 平均支給額 |
|---|---|
| 国家公務員(行政職) | 21,221,000円 |
この数字は、過去数年間ほぼ横ばいで推移しており、物価上昇や定年延長による影響は現時点では限定的です。
国家公務員の場合、退職金は基本的に全国一律の基準で支給されるため、地域差はほとんどありません。
地方公務員の定年退職金:平均2,262万円(行政職)
次に、地方公務員のデータを見てみましょう。
総務省の「令和6年4月1日地方公務員給与実態調査結果」によると、地方公務員(行政職)の平均退職金は約2,262万円となっています。
| 職種 | 平均支給額 |
|---|---|
| 一般行政職 | 22,623,000円 |
| 教育公務員(教員など) | 22,943,000円 |
| 警察官 | 23,113,000円 |
(出典:総務省「令和6年4月1日地方公務員給与実態調査結果」第9表の2)(※数値:支給総額を支給人員で割った数値)
教員や警察官などは、勤務環境の特殊性(時間外勤務・危険手当など)が加味され、やや高めの傾向にあります。
また、自治体によって支給額には数十万円単位の差があり、政令指定都市>県職員>市町村職員の順に高い傾向があります。
民間企業の定年退職金:大企業は約2,727万円
民間企業の平均退職金は、人事院の「令和3年度 民間企業退職給付調査」によると次の通りです。
勤続年数37年で定年退職した会社員の場合、
| 企業規模(従業員数) | 平均退職金 |
|---|---|
| 1,000人以上 | 27,276,000円 |
| 500~999人 | 19,131,000円 |
| 100~499人 | 17,756,000円 |
| 50~99人 | 15,951,000円 |
大企業は退職金・企業年金制度が整っているため、公務員よりも高額です。
一方で、中小企業では退職金制度自体が存在しない場合も多く、実際には公務員の退職金水準は“中堅企業よりやや上”といえます。
国家公務員・地方公務員・民間企業の比較まとめ
| 区分 | 平均退職金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 国家公務員(行政職) | 約2,122万円 | 全国一律の基準 |
| 地方公務員(行政職) | 約2,262万円 | 自治体により差あり |
| 民間企業(大企業) | 約2,727万円 | 退職年金を含む場合あり |
| 民間企業(中小) | 約1,500万円〜1,900万円 | 退職金制度なし企業も存在 |
元県職員の視点からのコメント
私が県庁に勤めていたときも、定年退職者への退職金はだいたい2,200万〜2,300万円台でした。
勤続35年以上で部長級まで上がると2,400万円を超えることもありますが、一般職員ではそれが上限クラスです。
自己都合退職時の公務員退職金はいくら?

「定年まで勤め上げるのは難しい」と感じ、転職や退職を考える公務員も増えています。
しかし、自己都合退職(自ら辞める場合)では退職金が大幅に減額されることをご存じでしょうか。
ここでは、国家公務員・地方公務員・民間企業のデータを比較しながら、実際の支給額を見ていきましょう。
国家公務員(行政職)の自己都合退職金(令和5年度)
内閣官房の公表データによると、国家公務員が自己都合で退職した場合の平均退職金は以下のとおりです。
| 年齢 | 平均退職金額 |
|---|---|
| 20歳未満 | 84,000円 |
| 20~24歳 | 198,000円 |
| 25~29歳 | 516,000円 |
| 30~34歳 | 1,067,000円 |
| 35~39歳 | 2,224,000円 |
| 40~44歳 | 3,862,000円 |
| 45~49歳 | 7,613,000円 |
| 50~54歳 | 10,866,000円 |
| 55~59歳 | 14,049,000円 |
たとえば25〜29歳で自己都合退職した場合の退職金はわずか51万円程度。
定年退職の2,000万円超と比べると、約1/40以下という厳しい現実です。
地方公務員(都道府県職員)の自己都合退職金(令和6年度)
同様に、総務省の調査による地方公務員の自己都合退職金は次の通りです。
| 年齢 | 平均退職金額 |
|---|---|
| 20歳未満 | 108,000円 |
| 20~24歳 | 242,000円 |
| 25~29歳 | 529,000円 |
| 30~34歳 | 1,043,000円 |
| 35~39歳 | 2,102,000円 |
| 40~44歳 | 3,231,000円 |
| 45~49歳 | 4,451,000円 |
| 50~51歳 | 5,390,000円 |
| 52~53歳 | 6,698,000円 |
| 54歳 | 7,149,000円 |
| 55歳 | 8,978,000円 |
| 56歳 | 8,154,000円 |
| 57歳 | 9,999,000円 |
| 58歳 | 10,910,000円 |
| 59歳 | 12,634,000円 |
(出典:総務省「令和6年4月1日地方公務員給与実態調査結果」第9表の1)(※数値:支給総額を支給人員で割った数値)
この表を見てもわかるように、30代前半での退職金は100万円前後にとどまります。
つまり、10年勤務しても退職金は数ヶ月分の給与程度です。
民間企業の自己都合退職金との比較
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、大学・大学院卒で1,000人以上の企業規模の場合、自己都合退職の平均退職金は次の通りです。
| 勤続年数 | 平均退職金額 |
|---|---|
| 20~24年 | 10,210,000円 |
| 25~29年 | 15,590,000円 |
| 30~34年 | 18,910,000円 |
| 35年以上 | 20,370,000円 |
民間大企業では、自己都合であっても一定の勤続年数があれば1,000万円を超える退職金を受け取るケースも多く、公務員の自己都合退職金は民間よりもかなり厳しい水準であることがわかります。
若手公務員が自己都合退職するとどうなる?
20代の公務員が自己都合退職をした場合、支給される退職金は20〜50万円前後が一般的です。
一方、退職時には以下のような支出が重なります。
引っ越し費用:10〜20万円
敷金などアパート諸費用:20〜40万円
転職活動費(交通費・スーツ代など):5万円前後
各種社会保険料・税金の清算:数万円〜10万円
つまり、退職金をもらっても1〜2ヶ月で消えるという現実があります。
自己都合退職後に注意すべきお金の落とし穴
失業手当がもらえない
公務員は雇用保険の対象外のため、原則として失業給付を受けられません。
→ 関連記事:公務員は雇用保険(失業保険)未加入なので失業給付はない(退職時要注意!)共済組合の傷病手当金制度を活用できるケースも
うつ病などの病気で自己都合退職する場合、在職中に申請すれば退職後も最長1年6ヶ月受給可能な場合があります。
→ 関連記事:【元公務員FPが解説】公務員の傷病手当金完全ガイド!退職後も申請OK!申請方法・注意点・体験談税金・社会保険料の支払いがすぐ発生
退職翌月から国民健康保険・年金・住民税の負担がのしかかるため、貯金ゼロ退職は危険過ぎです。
退職金の計算方法と「自分で試せる」早見表

ここまでで、「定年なら2,000万円以上、自己都合なら数十万円」という退職金の差を見てきました。
では、実際にあなたの退職金はいくらになるのでしょうか?
ここでは、公務員の退職手当(退職金)の計算式と仕組みを、わかりやすく紹介します。
国家公務員の退職金の基本計算式
国家公務員の退職金については、民間企業と差が出ないよう調整する「官民均衡」を基本としています。
国家公務員の退職手当の支給水準については、退職給付(退職手当及び年金払い退職給付(使用者拠出分))の官民均衡を図るため、おおむね5年ごとに行う民間企業の企業年金及び退職金の実態調査を踏まえて見直しを実施することとしています。
国家公務員の退職手当は「国家公務員退職手当法」に基づき、以下の計算式で算出されます。
基本額の求め方
調整額とは
支給率(倍率)は「勤続年数」と「退職理由」で決まる
支給率とは、「俸給月額の何か月分を支給するか」を示す割合です。
勤続年数が長く、定年退職であれば支給率が高くなります。
以下はおおよその目安です(国家公務員・行政職の場合)。
| 勤続年数 | 定年退職時の支給率(目安) | 自己都合退職時の支給率(目安) |
|---|---|---|
| 5年 | 3.5か月 | 1.0か月 |
| 10年 | 8.0か月 | 2.0か月 |
| 20年 | 20.0か月 | 4.0か月 |
| 30年 | 35.0か月 | 7.0か月 |
| 35年以上 | 40.0か月前後 | 8.0か月前後 |
たとえば、俸給月額が30万円の職員が勤続10年で自己都合退職した場合:
30万円 × 2.0か月 = 約60万円
まさに、前章のデータと一致します。
地方公務員もほぼ同じ仕組み(自治体で微差あり)
地方公務員の場合も、算出式は国家公務員とほぼ同じです。
ただし、条例により調整率や上限がわずかに異なるため、自治体によって支給額に数十万円程度の差が生じます。
例:
東京都職員は全国平均より高い(調整額が大きい)
小規模市町村では平均よりやや低い傾向
基本構造は共通しており、勤続20年以上・定年退職なら俸給月額の40〜45か月分が目安です。
自分の退職金を簡単に試算できる無料ツール
「自分ならいくらぐらいもらえるのか?」を今すぐ試したい方は、以下の無料シミュレーターを使うのがおすすめです。
退職金を計算したい公務員の方は、
CASIOさんが運営している「Ke!san生活や実務に役立つ計算サイト」
で簡単に計算できますので、ぜひご利用ください。
(他にも年金や税金の計算が簡単にできしまう非常に秀逸なサイトです!)
退職金を正確に見積もる際のチェックリスト
✅ 退職金チェックリスト(記事内にボックス化推奨)
現在の俸給月額(基本給)を把握している
勤続年数を正確にカウントしている
自治体または職場の退職手当条例を確認した
退職理由(定年・自己都合・勧奨など)を整理した
試算サイトで金額をシミュレーションした
税金・控除後の手取り額も計算した
これらを事前に確認しておくことで、退職後の資金計画がより現実的になります。
まとめ:計算式を知ることで「退職リスク」を数値化できる
退職金の仕組みを理解しておくことで、
「いま辞めたらいくら損をするのか?」
「あと何年働けばどのくらい増えるのか?」
を具体的に把握できます。
退職金は単なる一時金ではなく、長期勤続への報酬とライフプランの支柱です。
次章では、この退職金に影響を与える「定年延長・制度改正」について詳しく見ていきましょう。
定年延長・制度改正が退職金に与える影響
公務員の退職金制度は長らく安定していましたが、近年の「定年延長」や「給与制度改革」によって、大きな転換点を迎えています。
特に、60歳以降の働き方や退職時期の選択によって、退職金の支給額や年金受給開始時期が変化するため、制度改正の影響を正しく理解することが重要です。
公務員の定年延長とは?(2023年から段階的実施)
2023年度(令和5年度)から、国家公務員・地方公務員ともに定年が60歳から65歳へ段階的に引き上げられています。(令和13年4月に65歳)
| 年度 | 定年年齢 |
|---|---|
| 2023年度 | 61歳 |
| 2025年度 | 62歳 |
| 2027年度 | 63歳 |
| 2029年度 | 64歳 |
| 2031年度以降 | 65歳 |
(出典:人事院「国家公務員の60歳以降の働き方について(令和6年1月版)」)
この制度により、今後は多くの職員が60歳以降も継続勤務することになります。
ただし、給与・退職金の扱いが変わるため注意が必要です。
定年延長によって退職金はどう変わる?
結論から言うと、退職金の大幅な増加は見込みにくいと考えられています。
理由は次の3つです。
①「再任用」から「再雇用」へ移行するケースが増える
60歳でいったん定年を迎えた後、再雇用職員(会計年度任用職員など)として再就職する場合、退職金は一度支給され、その後の雇用では支給対象外となります。
つまり「定年延長=退職金も5年分上乗せ」とはならないのです。
② 定年延長後の給与水準が引き下げられる
60歳を超えると、役職定年(管理職からの降任)により給与が減少します。
その結果、退職時点の「俸給月額」が下がり、退職金の算定額(=俸給月額×支給率)も抑えられる傾向にあります。
③ 支給率の上限が設定されている
勤続年数が増えても、退職金の支給率はおおむね「40か月分前後」で頭打ち。
そのため、勤続が5年延びても、退職金の増加は数十万円程度にとどまる可能性があります。
一方で「退職金減額リスク」を回避できるメリットも
とはいえ、定年延長には「損をしないための仕組み」もあります。
従来の60歳定年制では、早期退職や再任用により退職金が分断されることがありましたが、段階的な定年延長により、一度の支給で済むケースが増加。
これにより「退職金を2回に分けて受け取ることによる税負担増」を防げます。
また、長く勤務するほど共済年金・厚生年金の加入期間も増えるため、将来の年金受給額が上がる(=老後資金のトータルで得をする)という長期的メリットもあります。
制度改正の背景:「官民均衡」と「人材確保」
この改革の背景には、次の2つの目的があります。
民間企業の定年延長に合わせる(官民均衡)
→ 公務員だけ60歳で一律退職では、人材流出が起きる労働力確保と年金制度の持続性
→ 少子高齢化により、働ける人を長く雇う必要がある
つまり、「退職金を増やすための改正」ではなく、“現役として働き続ける期間を延ばす”ための改正なのです。
定年延長後の退職金モデルケース
| 勤務パターン | 勤続年数 | 退職年齢 | 退職金(概算) |
|---|---|---|---|
| 旧制度(60歳定年) | 38年 | 60歳 | 約2,200万円 |
| 新制度(定年延長・65歳定年) | 43年 | 65歳 | 約2,350万円 |
| 60歳定年→再雇用5年 | 38年+再雇用5年 | 65歳 | 約2,200万円(再雇用分なし) |
結果的に、定年延長後の退職金は5年間働いても増加は+100〜150万円程度にとどまる見込みです。
ただし、その間の給与・年金上乗せ分を含めればトータルではプラスといえるでしょう。
元県庁職員の実感コメント
定年延長は“退職金を増やす制度”というより、“収入を安定的に確保し続ける制度”だと感じます。
公務員はもともと年功序列なので、60歳以降は昇給も緩やか。
それでも、長く働くことで年金額が増える点は見逃せません。
退職金だけでは足りない?退職後の収入構造を理解しよう

「退職金が2,000万円もあるなら老後は安心」——そう考える人は少なくありません。
しかし実際には、公務員でも退職後の生活費を退職金だけでまかなうのは難しいのが現実です。
公務員退職後の家計データ(人事院調査より)
人事院が公表した「令和5年度 退職公務員生活状況調査」によると、退職後の家計は以下のような状況です。
| 区分 | 平均月収入 | 平均月支出 | 収支 |
|---|---|---|---|
| 就労している退職者世帯 | 39.8万円 | 35.7万円 | +4.1万円 |
| 働いていない退職者世帯 | 19.2万円 | 29.0万円 | ▲9.8万円 |
つまり、働かないと毎月約10万円の赤字になります。
多くの退職公務員が「退職後もパート・臨時職員などで収入を得ている」理由が、このデータからも明らかです。
退職金の使い道ランキング
同調査によると、退職金の使い道は以下のとおりです。
| 使い道 | 割合 |
|---|---|
| 将来やいざというときの備え | 約41% |
| 日常生活費への充当 | 約24% |
| 住宅・土地の購入・リフォーム | 約13% |
| 借金・ローン返済 | 約8% |
| 旅行・趣味など | 約2% |
退職金の大半は「生活防衛・備え」に使われていることがわかります。
長年の勤務のご褒美として旅行に使うケースはごく一部。
ほとんどの人が「老後の赤字補填」「生活費のつなぎ」として活用しているのです。
退職金だけでは老後資金が不足する理由
退職金の減少傾向
国家公務員・地方公務員ともに、過去10年間で平均退職金は約100万円以上減少。
定年延長や物価上昇の影響で、実質的な価値はさらに下がっています。平均寿命の伸び
現在の平均寿命は男性81歳・女性87歳。
仮に60歳で退職した場合、20年以上の生活費を退職金で賄う必要があります。年金支給開始年齢の引き上げ
公務員も現在は原則65歳から年金受給。
60歳で退職しても5年間は「無収入期間」が生まれ、退職金を取り崩す必要があります。インフレによる生活コスト上昇
食料品・光熱費・医療費が上昇しており、20年前の生活費感覚が通用しない時代になっています。
老後資金を支える「3つの柱」
退職金だけに頼らず、老後資金は以下の3本柱で考えるのが現実的です。
| 柱 | 内容 | コメント |
|---|---|---|
| ① 公的年金 | 共済年金・厚生年金 | 長期勤続で増額可、確実性が高い |
| ② 退職金 | 一時金として支給 | 生活資金のクッションになる |
| ③ 資産運用・副収入 | 株式投資(NISA)・再雇用 | インフレ対策・余剰資金の活用に有効 |
公務員こそ「資産運用」で老後の安心をつくるべき理由
多くの現役公務員が「副業禁止だから投資も控えたほうがいい」と誤解していますが、資産運用(株・投信・iDeCo・NISA)は副業ではなく“資産形成”に分類され合法です。
公務員の給与は安定しているため、
NISAで積立(月2万円×20年=812万円、想定利回り5%)
iDeCo(節税しながら老後資金を貯める)
といった制度を活用すれば、退職金+αの資産形成が可能です。
退職金を減らさないための心得3か条
✅ 退職金を守る3つのポイント
退職金を生活費にすぐ使わず、まずは預貯金口座を分ける
老後資金の一部を長期運用(NISAなど)にまわす
医療費・介護費・税金など将来の出費を見越して計画的に使う
「もらった瞬間に使う」ではなく、「10年・20年かけて活かす」という発想が大切です。
公務員退職を考えたときに押さえておくべきチェックポイント
「もう辞めたい」「転職したい」と思ったとき、最も注意すべきなのがお金と制度の整理です。
公務員の場合、民間と違って雇用保険や社会保険の扱いが特殊なため、正しい手順を踏まないと「退職後にお金がもらえない」などのトラブルにつながります。
ここでは、自己都合退職を検討する公務員が退職前に確認すべき項目をチェックリスト形式で整理しました。
① 退職理由による影響を把握する(定年/自己都合/勧奨退職)
退職理由は退職金額や再就職支援に直結します。
大きく分けると次の3パターンです。
| 退職理由 | 退職金の扱い | 特徴 |
|---|---|---|
| 定年退職 | 満額支給(支給率40か月前後) | 最も優遇。表彰・再任用あり。 |
| 勧奨退職(希望退職) | 満額または増額支給 | 上司や組織から促される退職。特例支給あり。 |
| 自己都合退職 | 減額(支給率8か月前後が上限) | 若年層では数十万円レベル。失業給付なし。 |
💡 ポイント
公務員の場合、自己都合で退職すると退職金が最大で1/4〜1/5に減ることがあります。
転職などで早期退職を検討する際は、「あと何年働けばどれだけ増えるか」を数値で把握しておくことが重要です。
② 退職前に確認すべき「社会保険と税金」
退職直後は、思わぬ出費が集中します。
特に以下の3項目は事前に必ずシミュレーションしておきましょう。
| 項目 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 国民健康保険 | 退職翌月から加入 | 住民税と合算で高額になることが多い |
| 国民年金 | 自分で手続きして加入 | 免除申請・追納制度を確認 |
| 住民税 | 翌年度分を一括徴収されるケースあり | 退職金から天引きされる自治体も |
③ 退職金・年金・手当の受給タイミングを整理する
退職後、受け取れるお金の種類とタイミングは以下の通りです。
| 支給項目 | 支給時期 | 備考 |
|---|---|---|
| 退職手当(退職金) | 退職翌月〜2か月後 | 税引後で振込 |
| 共済組合・年金 | 原則65歳から | 退職時期により調整あり |
| 傷病手当金(在職中申請のみ) | 最長1年6か月 | 病気退職者のみ対象 |
| 再任用給与・再雇用給与 | 60歳以降継続勤務時 | 退職金とは別枠 |
退職金を受け取ったあと、年金受給までに収入の“空白期間”ができる点が最大の注意点です。
この5年間をどうつなぐかが、老後破綻を防ぐカギになります。
④ 転職・副業・起業を考えるなら「生活資金3か月分」を確保
自己都合退職後は、再就職までのブランク期間が平均3〜6か月といわれています。
その間の生活費を退職金に頼ると、すぐに底をついてしまいます。
✅ 最低限の備え
貯金+退職金で生活費3か月分を確保
転職活動の交通費・面接費も予算に入れる
退職後すぐ収入がない場合は「国民年金免除申請」を早めに
まとめ:退職は「お金の戦略」を立ててから
退職は勢いではなく、戦略的に準備する「ライフイベント」です。
とくに公務員の場合は、
雇用保険がない
自己都合の場合は退職金が大幅に減る
税金・社会保険料の負担が重い
という3つのハードルがあります。
だからこそ、「辞めたい」と思った時こそ冷静に数字で判断し、「退職後3か月を生き抜く資金」と「次の収入源」を確保してから行動に移すようにしましょう。
体験談:元県庁職員が語る「実際の退職金とその後」
ここからは、実際に県庁職員として働いていた筆者(伯爵さん)のリアルな退職体験をお話しします。
「退職金って本当にそんなに少ないの?」
「辞めたあとどうやって生活したの?」
という疑問を、具体的な数字とともに共有します。
私の退職までの経緯と退職金の実額
私は大学卒業後、県庁の林業職として約9年間勤務しました。
仕事そのものにやりがいを見い出せず、精神的な疲労も蓄積し、他にやりたいことも出てきたので、最終的には自己都合で退職を決断しました。
退職時に受け取った金額は――
県職員としての退職金:約100万円
その後1年間勤務した学校事務職の退職金:約12万円
合計で約112万円でした。
想像していた「公務員の退職金(2,000万円)」とは桁違いで、正直かなりショックを受けました。
「9年も働いてこれだけか」と感じたのが率直なところです。
退職直後の生活:現実はかなりシビア
退職後、数ヶ月は貯金と退職金で生活しましたが、
- 引っ越し代
- 国民健康保険の納付
- 住民税の納付
- 家賃、生活費
などが一気に重なり、半年で退職金の半分が消えました。
さらに、公務員は雇用保険に加入していないため、失業手当がありません。
「もう少し準備しておくべきだった」と痛感した瞬間でした。
退職して気づいた「金銭面以外のギャップ」
退職直後に強く感じたのは、
「お金以上に環境の変化が大きい」
「公務員の社会的ステータスは素晴らしかった」
ということ。
毎朝出勤していた生活リズムが崩れ、社会との接点が急に減ったことで精神的にも不安定になりました。
お金の準備も大切ですが、“退職後の生活リズム”を整える準備も同じくらい大事です。
私は在宅ワークを始めてから、ようやく心と時間のバランスを取り戻せました。
また、公務員を辞めたあとは、アパート契約もスムーズにいかなかったことがあり、公務員の社会的ステータスは良かったなと後悔する場面もありました。
自己都合退職でも「備え」があれば怖くない
一方で、退職を後悔していないのも事実です。
在職中から少しずつブログ運営やYouTubeの勉強をし、株式投資も始めていたおかげで、退職後も「ゼロからの再出発」ではありませんでした。
公務員として働きながらでも、
月1万円でも積み立て投資を始める
お金や起業・転職などの知識を少しずつ身につけておく
固定費を削減し、生活防衛費を確保する
こうした「小さな行動の積み重ね」が、後の安心につながります。
ケーススタディ:退職後の3タイプの生き方
| タイプ | 概要 | 特徴 |
|---|---|---|
| Aタイプ:定年まで勤め上げる | 退職金2,000万円+年金 | 安定だが再雇用で収入減も |
| Bタイプ:40代で早期退職 | 退職金800〜1,000万円 | 再就職・転職前提、計画必須 |
| Cタイプ:20〜30代で自己都合退職 | 退職金数十万〜200万円 | 無計画退職は危険、次の収入源が命綱 |
筆者はCタイプでしたが、結果的に今の生活に満足しています。
公務員の経験・知識は民間でも十分通用するため、「辞めたら終わり」ではありません。
退職後に後悔しないための心構え
退職金を“ボーナス”ではなく“再出発の資金”と捉える
生活費3か月分+税金分を確保してから辞める
精神的な準備を整えてから決断する
退職=終わりではなく、“新しい働き方の始まり”と考える
参考記事:【公務員辞めたい人必見】30代うつ病で公務員を退職した元県職員のその後(約7年経過)
まとめ:退職金に期待しすぎず、現役世代から備える人生設計を
この記事では、公務員の退職金について
定年退職と自己都合退職の金額差
退職金の計算方法と支給ルール
定年延長・制度改正の影響
退職後の家計実態と老後資金の現実
を詳しく見てきました。
結論として言えるのは、
👉 「退職金は人生を変えるほどのボーナスではなく、現役時代の努力の“ご褒美”にすぎない」
ということです。
退職金に頼る時代は終わった
ひと昔前は「退職金で老後資金は十分」という考えが通用しました。
しかし今は、物価上昇・寿命延伸・年金支給の遅れにより、退職金2,000万円でも足りない時代です。
さらに、20代30代での自己都合退職では退職金が数十万円~100万円台。
定年まで勤め上げても、住宅ローン・介護費・子どもの教育費を差し引けば、老後の余裕資金は限られます。
だからこそ「今」できる備えが大切
現役世代のうちに次の3つを意識しておくことが、老後の安心につながります。
✅ 公務員のための老後資金3ステップ
NISA・iDeCoなどの長期積立投資をスタート
→ 副業禁止でも合法的にできる「資産運用」。生活防衛資金(生活費6か月分)を貯める
→ 退職金が出る前に、いつでも辞められる安心感を持つ。退職後の働き方を考える(再任用・在宅ワーク・副業)
→ 「収入をゼロにしない」ことが最大のリスク回避策。
さいごに:退職金は「安心の種」
退職金は、いままでの努力の証であり、これからの人生を豊かにする**“安心の種”**です。
その種をどう育てるかで、あなたの老後は大きく変わります。
「もらって終わり」ではなく、「どう活かすか」を考える。
それこそが、公務員として賢く生きる第一歩です。
