公務員が異動や採用で新しい勤務地に転居する場合、引越しにかかる費用の一部を補助してもらえる「赴任旅費(ふにんりょひ)」が支給されます。
この制度は新採用者だけでなく、現役公務員が人事異動で転勤した場合にも対象になります。
ただし、自己都合の引越しや、内示前の転居は対象外なので注意が必要です。
本記事では、以下のような方に向けて、赴任旅費の概要・注意点・自治体ごとの違いなどを元県職員(9年)が詳しく解説します。
- 公務員試験に合格し、勤務地近くへ引越す予定のある方
- 人事異動に伴い転居を考えている現役公務員
※異動に伴う引越し手当の正式名称は、「赴任旅費」あるいは「特殊旅費」です。本記事では「赴任旅費」で統一します。
赴任旅費の基本:何が支給されるのか?
引越し費用への手当は「実費支給」か「定額支給」の2パターンあり(自治体で異なる)
赴任旅費では、一般的に以下の費用が対象になります:
- 引越し業者に支払う費用(移転料)
- 引越し後の住居にかかる一部の初期費用(着後手当)
- 家族を伴って転居した場合の交通費(扶養親族移転料)
ただし、移転料については距離や家族構成に応じた上限額が設けられており、業者選定や見積もり方法によっては全額支給されない場合もあります。
また、3月中旬〜下旬の繁忙期は引越し費用が通常の2〜3倍になることもあり、注意が必要です。
私が引越し業者から言われたのは、例えば、夏頃だと5万円で済む引越し代が、同じ内容で3月下旬だと15万円以上になるとかです。
【地方公務員編】福島県・長野県・高知県の赴任旅費を比較
以下では、福島県・長野県・高知県の例をもとに、実際に支給される金額や上限について解説します。
福島県の赴任旅費支給額
移転料(定額支給) | (単身者) 50km未満 63,000円 50km~100km未満 72,000円 100km~300km未満 89,000円 300km~500km未満 110,000円 など (家族を伴う場合) 50km未満 126,000円 50km~100km未満 144,000円 100km~300km未満 178,000円 300km~500km未満 220,000円 など |
着後手当 | 公舎・自宅等に転居した場合 28,800円 借家等に転居した場合 28,800円+加算額※ |
扶養親族移転料 | 引越しの際に扶養親族を旧居住地から新居住地まで随伴する場合は、交通費などが支給されます。 |
※着後手当:特別な事情ですぐに新しい住居に住めないとき、28,800円を超える実費額を負担した場合、その超えた部分に相当する額について、14,400円を上限に加算
※加算額:加算額の計算には礼金、仲介手数料等(家賃、敷金、各種保険料等は除く)が対象。詳しくは以下のリンクより確認。
(参照元:赴任旅費・帰住旅費の手引)
長野県の赴任旅費支給額
移転料(実費支給) | (上限) 50km未満 107,000円 50km~100km未満 123,000円 100km~300km未満 152,000円 300km~500km未満 187,000円 など |
着後手当(注意:礼金及び不動産手数料のみ対象)※ | 52,000円(上限) |
移転雑費 | 20,000円(定額) |
扶養親族移転料 | 引越しの際に扶養親族を旧居住地から新居住地まで随伴する場合は、交通費などが支給されます。 |
※着後手当:礼金など以外にも特別な事情ですぐに新しい住居に住めないときは最大5泊分を上限として支払った額を支給
(参照元:一般職の職員の旅費等に関わる条例)
高知県の赴任旅費支給額
移転料(実費支給) | (単身者・上限) 8km~50km未満 80,250円 50km~100km未満 92,250円 100km~300km未満 114,000円 300km~500km未満 187,000円 など (家族を伴う場合・上限) 8km~50km未満 160,500円 50km~100km未満 184,500円 100km~300km未満 228,000円 300km~500km未満 374,000円 など |
着後手当(注意:礼金及び仲介手数料のみ対象)※ | 55,000円(上限) |
移転雑費(単身の場合) | 10,000円(定額) |
職員移転料 | 旧居住地から新居住地までの交通費や宿泊料などが支給 |
扶養親族移転料 | 扶養親族を旧居住地から新居住地まで随伴する場合は、交通費などが支給 |
※着後手当:礼金など以外にも特別な事情ですぐに新しい住居に住めないときは最大5泊分を上限として支払った額を支給(1泊あたり7,300円上限)
このほか、移転料の上限を超えている場合で、要件を満たし、かつ、任命者がやむを得ないと認めるものに限り、下表の上限額が適用されることになっています。
距離(一例) | 単身者・上限 (家族を伴う場合・上限) |
---|---|
8km~50km未満 | 160,500円 (321,000円) |
50km~100km未満 | 184,500円 (369,000円) |
100km~300km未満 | 228,000円 (456,000円) |
300km~500km未満 | 280,500円 (561,000円) |
※適用要件:原則として3社以上の引越し業者から最も安いプランで見積りを徴し、最も安価な引越し業者を選定すること。
(参照元:高知県新規採用職員の赴任旅費について)
福島県と長野県と高知県を見比べると、そこまで大きな金額の差はありませんでした。
【共通して支給される手当の例】
- 移転料(引越し業者に支払う費用):実費支給または定額制(自治体により異なる)
- 着後手当(礼金・仲介手数料など):上限あり
- 扶養親族移転料:家族の交通費等を補助
- 移転雑費:パッキング費などに充当
※細かい金額などについては、自治体で違うので、詳細なデータを知りたい場合は、ご自身の自治体の旅費法や旅費マニュアルをみるか事務担当者に確認してください。
国家公務員の場合:定額から実費支給への転換に注目
国家公務員の場合も、赴任旅費が支給されます。
近年までは原則「定額支給」でしたが、令和7年(2025年)4月1日からは、上限付きの実費支給方式へ変更される法改正が可決・成立しています。
これにより、引越しの実態に即した柔軟な支給がされやすくなり、地方公務員の制度と近い形に。
転居費(実費) | 運送業者が家財の運送を行う場合には、複数の運送業者に見積りをさせ、かつ、その中から最も経済的なものを選択するときに限り、当該運送に要する額を転居費の額とする方法 |
着後滞在費 | 5夜分を限度とし、現に宿泊した夜数に係る宿泊費及び宿泊手当の合計額に相当する額 |
家族移転費 | 家族一人ごとに、職員がその移転をするものとして算定した交通費、宿泊費、包括宿泊費、宿泊手当及び着後滞在費の合計額に相当する額 |
(参考:e-Gov法令検索 国家公務員等の旅費に関する法律施行令、e-Gov法令検索 国家公務員等の旅費支給規程)
~参考~
国家公務員の赴任旅費については、財務省が2023年4月28日時点で定額支給方式を維持するか、実費支給方式を導入するか議論していました。
(参考資料:財務省「国家公務員等の旅費制度の見直し」)
2024年4月26日、国家公務員の改正旅費法が26日に議会で可決、成立し、5月15日公布されました。これにより移転料は定額から上限付きの「実費支給」となり、令和7年4月1日施行予定となっています。
(参考資料:財務省「国家公務員等の旅費制度の改正」)
国家公務員の旅費制度の見直しについて、詳しく知りたい方は以下の記事が分かりやすいと思います。
赴任旅費が支給されないケースに注意!
自己都合の引越しは対象外
赴任旅費はあくまで新しい職場に赴任するために引っ越しした場合のみに支給されます。
そのため、以下のような異動とは関係のない「自己都合の引越し」をした場合、赴任旅費は支給されません。くれぐれもご注意ください。
- 結婚したから広いアパートに引っ越しした
- 新しいキレイなアパートに住んでみたかったから引っ越しした
- 格安の職員宿舎が空いたので移った
- 実家住まいが嫌になってアパートに移り住んだ(私経験あり)
- 社会人で採用されたけど、勤務地のそばで良い条件のアパート借りたかったから内示前に借りた(私経験あり)
人事異動発表前に引越しした場合
新規採用者にありがちなミスですが、人事異動発表前(内示前)の引越しは赴任旅費の対象となりません。
あくまで、人事異動(内示)で勤務先が決まったあとでの引越しが対象です。
ただし、自治体によって、この考え方も違う場合があるので、当該自治体の担当部署(人事委員会、総務部、人事課など)に確認するのが間違いないです。
例えば、福島県では、以下の通りとなっています。
新規採用職員が4月1日付けの採用の場合は、採用日の直前の3月1日以降に、それ以外の場合は採用日から起算して30日前の日以降にその採用のため住所又は居所を移転した場合には、それが採用前の移転であっても赴任に伴う住居の移転であるとみなして旅費を支給します。
(引用:福島県「赴任旅費・帰住旅費の手引」)
引越しが4月を過ぎた場合
内示以降、多忙で引越しができず、4月以降に引越しをする職員もいると思います。
その際、赴任旅費の対象になるかですが、高知県の場合、新規採用職員の赴任旅費の支給対象となる転居は原則採用日から原則1ヶ月以内の転居としています。
(引用:高知県HP赴任旅費Q&A)
よくある誤解と注意点まとめ
着後手当は敷金には支給されない
引越しをした際に「着後手当」が支給されますが、その対象はあくまで「礼金」と「不動産手数料(仲介手数料)」のみです。
敷金や前家賃、駐車場代、管理費等は対象外ですので注意してください。
どこまでが対象となるかは、都道府県で考え方が違う場合もあるので、引越し前に総務担当者によく確認することをおすすめします。
個人で荷物を異動した場合は対象外
移転料はあくまで引越し業者等に支払った料金について支給するものです。
そのため、
- 自分でトラックを借りる
- 友人からトラックを借りる
- 実家の軽トラを運転する
などして荷物を搬送してしまうと、移転料は支払われませんのでご注意ください。
駐車場は着後手当の対象外
移転したあとに、アパートに駐車場がなく、新規に駐車場を借りる場合の礼金や仲介手数料は着後手当の対象外です。
駐車場借り上げに係る経費は支給されません。
本人名義の領収書が必要
あと、必ず「本人名義の領収書」は保管しておくようにしましょう。
赴任旅費の請求書類に領収書の添付が必要となります。(この領収書の額で支給額を決めるので)
くれぐれもご注意くださいね。
引越し費用を抑えたいなら?
公務員でも、移転料の上限を超えると自己負担が発生する可能性があります。
そのため、引越し業者への一括見積もりサイトを活用するのがおすすめです。
僕も実際に一括見積で5社比較して、最安値の業者を選びました!
✅ 参考リンク:【LIFULL引越し】
まとめ
- 公務員の引越しには「赴任旅費」が支給される制度がある
- 移転料・着後手当・扶養親族移転料などが対象(条件・上限あり)
- 自己都合・内示前の引越しは対象外!
- 支給内容は自治体や職種によって異なるので、必ず事前確認を!
- 領収書を必ず保管し、申請時に添付すること
最後まで読んでくれてありがとう☆ 無駄な出費を避けて、スマートに引越ししよう!