2019年に金融庁の報告で明らかになり話題となった「老後資金2000万円問題」。
豊かな老後を過ごすため、また老後のお金の不安を少しでも軽減するため、個人型確定拠出年金、通称iDeCo(イデコ)を始めたという人も多いのではないでしょうか。
しかし、iDeCoだけが老後資金の解決策ではありません。
iDeCo以外にも制度はいくつもあります。
その中に今回ご紹介する「小規模企業共済」という制度があります。
個人事業主になったばかりの人は、多くの人がその存在を知らないのではないでしょうか。
iDeCoブームであまり目立ちませんが、個人事業主・小規模企業の経営者や役員は、この「小規模企業共済」は知っていて損はありません、というか知っていたほうが良いです。
場合によっては、iDeCoに加入するよりもメリットが大きいです。
今回は、個人事業主におすすめの小規模企業共済について、iDeCoと比較しながらご紹介します。
小規模企業共済とは?
国の機関である中小機構が運営する小規模企業共済制度は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための、積み立てによる退職金制度です。現在、全国で約153万人*の方が加入されています。掛金は全額を所得控除できるので、高い節税効果があります。将来に備えつつ、契約者の方がさまざまなメリットを受けられる、今日からおトクな制度です。
*2021年3月末現在
このように節税効果があるなど、個人型確定拠出年金(以下、iDeCo)と似ている部分があります。
小規模企業共済の加入者は約153万人(2021年3月末)と多く、iDeCoの約217万人(2021年9月時点※)に肉薄するほどの数です。
(※運営管理機関連絡協議会作成の確定拠出年金の統計資料。iDeCo公式サイトより)
また、小規模企業共済は、中小機構側で資産運用しているのも特徴です。
8割を自家運用(主に国内債券)に、残り2割を運用機関(国内株式、国内債券、外国株式、外国債券)に委託しています。
ちなみに、運用利回りは以下の通りとなっています。
- 2016年 2.39%
- 2017年 2.55%
- 2018年 0.99%
- 2019年 -0.07%
- 2020年 5.26%
個人型確定拠出年金(iDeCo・イデコ)と小規模企業共済の違い
加入対象者
iDeCo | 小規模企業共済 |
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ほぼ全ての国民 |
小規模事業を営む事業主のみ (個人事業主、法人の役員、共同経営者など) |
対象範囲はiDeCoがほぼすべての国民に対して、小規模企業共済はあくまで経営者を対象としています。
小規模企業共済の認知度が低いのはこの加入対象者の狭さが原因となっているのではないでしょうか。
小規模企業共済は共済制度(退職金制度)、iDeCoは国民年金や厚生年金のような年金制度、とそもそも制度のタイプが違いますが、どちらも老後の備えとして加入するものとなります。
拠出(納付)期間・掛金最低額・上限額
iDeCo | 小規模企業共済 |
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拠出期間:60歳になるまで 最低額:月5000円~ 設定:1000円単位で自由に設定可能 上限額:月12000円~68000円(職業によって異なる) ※平成30年1月より、掛金の拠出を1年の単位で考え、加入者が年1回以上任意に決めた月にまとめて拠出(年単位拠出)できるようになりました |
納付期間:制限無し 最低額:1000円~ 設定:500円単位で自由に設定可能 上限額:7万円まで ※納付は月払い・半年払い・年払いから選択可能 |
表のとおり、小規模企業共済のほうが自由度が高いですね。
運用商品の選択
iDeCo | 小規模企業共済 |
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自分で選択できる。 証券会社、銀行、保険会社を選び、扱っている豊富なラインナップ(リスク商品の投資信託、元本確保型商品の定期預金、保険商品)から商品を選びます。 |
自分で選択できない。 中小企業基盤整備機構に一任。 |
ここが一番のポイント、どちらを選ぶかの判断の分かれ目となると思います。
より高いリターンを狙いたい人はiDeCo一択です。
自分でハイリスク・ハイリターンの商品を選ぶことで、もしかしたら老後までに大きな利益が見込める可能性があります。
対して、小規模企業共済は「将来にわたり確実にすることができるよう安全かつ効率的に行う」という基本方針のもとで運用されていますので、iDeCoに比べ安定安全といえるでしょう。
損したくない人、リスクを取りたくない人は小規模企業共済が向いていると思います。
もちろん、iDeCoもリスクがあまりないものを選べば、絶対とは言えませんが安全安心の運営は可能です。
節税効果
iDeCo | 小規模企業共済 |
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運用益は非課税。 掛金は全額所得控除。 受け取り時も税控除あり。 |
掛金は全額所得控除。 受け取り時も税控除あり。 |
節税効果についてはほぼ同じです。
ここが、両者共通の一番の加入メリット・魅力と言えるでしょう。
例えばですが、年収や扶養家族数などによって変わってきますが、普通のサラリーマンで掛金の15~30%に当たる税金が返ってくる人が多いでしょう。
受け取り時期
iDeCo | 小規模企業共済 |
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原則60歳まで受け取れない。 死亡時。 途中引き出しはダメ。 受け取り方は「一括」「分割」「一括と分割の併用」が可能。
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廃業時。 死亡時。 老齢給付は65歳以上。 満期や満額はなし。 受け取り方は「一括」「分割」「一括と分割の併用」が可能。 |
ここも小規模企業共済のほうが自由が高いと言えるでしょう。
特に、iDeCoは途中引き出しが原則できません。
何か急に大きな出費があり、まとまったお金が必要になったときでも、iDeCoでは基本的におろすことはできません。
受取額
iDeCo | 小規模企業共済 |
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運用結果による。 利益がでていれば掛金よりも多くの資金を手に入れることができるが、その逆で損失がでていれば掛けた金額よりも下がってしまう可能性があることは十分理解しておく必要があります。大きな損失をだしても補填されることはありません。 |
共済金=基本共済金+付加共済金。 基本共済金は掛金額、納付月数及び共済事由ごとに固定されている。 付加共済金は毎年度の運用収入等に応じて、経済産業大臣が毎年度定める率により算定。 ちなみに予定利率(※)は1%となっています。 |
※予定利率とは
本制度では、お預かりした掛金を原資に一定の運用収入を見込んで共済金や解約手当金の額を設定しており、この運用収入の見込みを算出する際の利回りを「予定利率」といいます。
ちなみに、iDeCoも小規模企業共済も元本保証はありませんので、ご注意ください。
中途解約
iDeCo | 小規模企業共済 |
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原則途中解約できない。 掛金を継続しない場合はiDeCoの加入者資格喪失手続きをし、それまで積み立てた資金の運用を続ける必要があります。(一部例外もあり。)
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解約可能。 それまでの掛金に応じて解約手当金がもらえますが、掛金納付月数が240か月(20年)未満で任意解約をした場合は、掛金合計額を下回りますので十分注意が必要です。 |
中途解約については、上表に示したように、気をつけないといけない点がそれぞれあるので十分ご注意ください。
加入シミュレーション
中小機構HP小規模企業共済ページで、加入シミュレーションが利用できます。
ここで将来受け取れる共済金と節税効果の試算が可能となっています。(下:加入シミュレーション画面サンプル)
小規模企業共済には貸付制度もあり
掛金納付期間に応じた貸付限度額の範囲内で、事業資金の貸付制度が利用できます。
低金利、即日貸付可能となっています。
- 一般貸付け
- 緊急経営安定貸付け
- 傷病災害時貸付け
- 福祉対応貸付け
- 創業転業時・新規事業展開等貸付け
- 事業継承貸付け
- 廃業準備貸付け
結論
個人事業主や会社経営者になったら、小規模企業共済に加入したほうが良いという意見は多いです。
それは上記でみてきたように、節税効果などのメリットが多いからです。
ただ、「周りの人がみんな加入しているから加入する」というような、加入の仕方は止めたほうが良いと思います。
制度の内容をよく知らないと損を被ったり、後悔することになりかねません。
加入前には十分時間を掛けて検討することをおすすめします。
私個人的な意見として、iDeCoと小規模企業共済の加入については、
- 「リターンを期待したいのか(リスク許容型タイプ)→iDeCo」
- 「確実に決まった額を受け取りたいのか(安定志向タイプ)→小規模企業共済」
で判断が分かれると思います。
堅実的に考えると、まずは小規模企業共済を優先し、余裕があるならiDeCoも併用すると、リスクは軽減できます。
でも、迷っているなら、
「小規模企業共済&iDeCoどっちも加入することが最強!」
と思います。
ただ、あくまで余裕資金でおこなってくださいね。
現時点で生活に四苦八苦している状況であれば、まずは貯金最優先です。
【まずは資料請求!】
(参考)「中小企業退職金共済制度(中退共)」の違いは?
本記事で紹介した「小規模企業共済」と似たような名前で「中小企業退職金共済」があります。
違いは、「経営者」を対象にしているか、「従業員」を対象にしているかです。
小規模企業共済制度は、小規模企業の個人事業主、共同経営者、会社等の役員を対象にしています。
そして、中小企業退職金共済制度は、中小企業の従業員を対象とした退職金共済制度です。